滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「いきなり変なこと言うから何事かと思った」
「俺、名演技だろ?役者にでもなれっかな〜?」
誰もいなくなったオフィスを最後に出た私と彼。
何でも私達を変な目で見る同僚達に対してわざとあんな口ぶりをしたというのだ。
「言われてみれば、最近会社でも誰かに常に見られてるような視線感じるんだよなぁ…」
シーンと静まり返るひっそりとしたエレベーター前の踊り場で、
上昇してくる点滅した数字を見上げながらふと思った。
夜のことがあるから余計にそう敏感に感じてるだけなのだろうか…。
その時、チーンと鳴ってエレベーターの扉がゆっくり開く。
私と彼はそのまま乗り込んで一階のボタンを押した。
「俺はいつも奈緒子さん、見てるよ?」
「へ?」
「だって好きな人を眺めるのは、恋心を持つ人間なら当たり前じゃん?」
肩を並べて立つ彼がイヒヒと笑いながら私の顔を覗き込んできた。