滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

「ちょ、ちょっと…わ、私、そろそろオフィス戻らないと」



その気迫が心配を通り越して恐怖すら感じてきた私は俊介から逃げようとするのだが、

三畳ほどの細長い通路にコピー二台があり、相手に体に拒まれてすり抜けるにもすり抜けられない。





「わざわざ部長に頼むことないだろ。仕事で散々使われてるんだぞ、それとも強引に?」

「いっ!」




瞬きすらせず真顔で私に詰め寄りながらいきなり私の肩をガッと掴み更に顔を近づけてくる。



その目は何かに取り憑かれたように冷たくて、
私が知ってる俊介の顔とは明らかに違っていた。




「何か怖いよ…、どうしたの?」



俊介のオーラに恐怖で震えながら言うと、お前が心配なんだよ。と棒読みですぐに返してきた。





「…あんな奴には渡さない」





据わった目でボソリと低い声で呟く。



その瞬間背筋がゾッと凍るような感覚がした。
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