滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬


「ここが夏目屋本店かぁ。やっぱり明治時代から続く老舗は違うなぁ〜」



こじんまりとした店内を見渡しながら、物珍しそうに眺めている。



「何でここに…!?」




ーーって私、まだすっぴんだった!

しかもドテラ着てるし!!



ハッと我が身の姿を思い出して、恥ずかしさのあまり顔を赤くする。



でも蒼はそんなことお構いなしに、
ガラスのショーケースなどを眺める。




「うわ!団子とかあるんだ!めっちゃうまそ〜」



本店でしか出していないメニューに蒼は目をキラキラと輝かせながら呟く。




「ね!みたらしとあんこだったらどっち美味い?」

「えっ!?」

「せっかく来たんだから食べていかないとー!」




私の事など全く見ずにショーケースの菓子に釘付けの蒼。


何だが自分だけがこっぱ恥ずかしくなってちょっと悔しくなったが、


私はあえてあんこの横にある磯辺巻きもいいよと勧め、蒼は意外そうな表情をしながらも、
じゃ二つ下さいと母親に注文したのだった。

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