滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「見渡す限り山だなぁ〜」
実家の車を運転する私の隣で、
蒼が磯辺巻きを食べながら外の風景を眺めている。
「昔さ、山を見てると目が良くなるって聞いたことあるけど、あれってホントかな?」
「あながち間違ってないかも。村のみんなは眼鏡かけてる人いないからね。遠くを眺めると視力にいいって聞いたことあるよ」
「すげ〜!」
平然と蒼と話してる自分が嘘みたいだった。
だって仕事納めも結局来ないで、
年内は会えないまま終わってしまったから。
この数日間、何をしていたのかと問い詰めるよりも、
今の緩やかな空気を楽しみたい気持ちの方が強かったのだ。
「奈緒子さんの運転姿初めて見た」
助手席でニヤニヤしながら見つめてくる蒼に若干戸惑う私。
「へっ、変なこと言わないでよ!運転に集中出来ないじゃないっ」
「ちょっと〜事故るのはやめてよ〜」
はははと冗談を言いながら話す蒼。
「でも…奈緒子さんと一緒に死ねるなら本望かな」
ーードキッッ!!
何気無く言った台詞に、
思わずハンドルを持つ手がビクッとはねた。