滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
無理もないだろう。
誰もが蒼の帰りを待っていたのだから。
「前任の真壁くんは諸事情で昨年退社された。とてもよくやってくれたのに残念だ」
退社?
諸事情!?
なんで、
なんで、
なんで…!?
昨年退社したなんて嘘だよ!!
私はその日の昼休み、蒼に電話をしようと決めていた。
そして短い針が真上に来ると、
室内にチャイムが鳴り昼休みとなった。
私は慌ててオフィスから出て簡易休憩所な行って蒼に電話をかけた。
「私に何も言わないで辞めるなんておかしすぎるじゃない…!」
ドクンドクンと大きな胸騒ぎが鼓動する。
蒼の事で頭がいっぱいでろくに仕事に集中出来なかった。
リダイヤルの履歴に残された蒼の番号にかける…。
ーーお願いだから出て!!
プルル…ガチャ!
「もしもし、わた」
『この番号は現在使われておりません。番号をご確認の上もう一度おかけ直しください』
「…」
驚愕した私の手の内からスルリと携帯がぬけ、床に落ちる…。
『この番号は現在使われておりません。番号をご確認の上もう一度おかけください…』