滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

周りの同僚も不思議そうな表情で私と彼を見つめている。


もちろんその中には俊介の姿も。






「そんなびっくりしなくても」



クスクスと口に手をあてて笑う顔は会ったときと同じ、少年のようなあどけなさがある。





まさかまた会えるなんて思いもしなかった。


しかも私の上司となって、
再び姿を現すなんてーー!







「忘れ物ですよ、奈緒子さん」







呆然とした私に彼が微笑んで何かを差し出した。





それはアメリカで無くしたはずの、

あの、思い出の財布だった。



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