もう一度抱いて
外に出ると、夜中の間に雨が降っていたようで、アスファルトのあちこちに水溜りが出来ていた。


雨上がりの湿った空気が、さっき乾かしたばかりの髪をまた湿らせていく。


午前8時の薄暗いオフィス街は、日曜日のせいか人通りも少なくて。


私達は黙ったまま駅の方へと少し距離を置きながら歩いていた。


「ねぇ…」


私の斜め前を歩く彼が振り返ってボソッと呟く。


「なに…?」


目線だけ向けて答えると。


「あそこ入ろう…」


彼の指差す方向にあるのは、ビルの一階にある小さなカフェ。


「コーヒーでも奢るよ」


意外な提案に少し戸惑ったけれど。


私は彼の後ろに付いて、一緒にカフェに入った。
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