もう一度抱いて
「アホやな」


「は…?」


「そないなことするヤツって、タダのアホやん」


「アホって…。

死にたいほどの苦しみを味わったこともない人に、そんなこと言われたくないわ… 」


顔を歪ませ、怒りを含んだ声で朝田さんは言った。


「悪いんやけど、俺は同情はせぇへん。

かわいそうやなんて、一切思わへんから」


俺がそう言うと、朝田さんは少し複雑そうな顔をした。


「私の過去を聞いたら、きっとかわいそうって思うわよ…」


少しムキになる朝田さん。


「いいや、全然思わへん」


「聞いてもいないのに?」


「聞いても思わへん」


俺の態度に、彼女は不満そうに口を尖らせた。


今にも自分の過去の事を話し始めそうや。


「なんや?朝田さん。

自分がかわいそうって思われたいんか?」


俺の質問に、えっ?と言う顔をする朝田さん。


「まるで、俺からかわいそうって思われたいみたいやで」

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