もう一度抱いて
「あ…いや。いつもだったらさ、大抵ここでボーカルと言い合いになるんだ。
お前、何様?とか、文句があるならテメエで書けとかさ」


「はぁ…」


「アンタみたいに、素直に書き直すって言ったヤツは初めてだったから…。
だから、ちょっとビックリしたんだ」


そう言って磯村君が、優しい目をして私を見た。


ふぅん…。


みんな、その程度の事で怒るのか。


相当自信作だったのかな…。


男の人だし、プライドが傷ついたのかもしれないな。


「なぁ…」


「ん?」


「出来ればさ、自分の事を書いてくれる?」


「え…?」


「想像じゃなくてさ、自分の感情とか思いとか。
アンタの頭の中にあるもの、全部さらけ出す気持ちで書いて欲しい」


さらけ出す…?


「もっと泥臭いのがいいんだ。だって沸き上がる感情ってさ、綺麗なものばかりとは限らないだろ?」


「うん…、確かに」


「アンタの素直な感情をもっと出してよ。その方がリアルだし、聴いてる人にも伝わるからさ」


そうか。


歌詞ってそんな風に書くんだ…。


プロの人は必ずしもそうじゃないんだろうけど、私は素人だしね…。


とりあえず、磯村君の言うように書いてみよう。


「わかった。頑張る」


私がそう言うと、磯村君はきゅっと目を細めて笑った。


その顔を見ていたら、胸の奥がほんわかとあたたかくなるのを感じた。
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