もう一度抱いて
「歌詞が全部、失恋の歌詞だったから」


「あ、あぁ…」


「もしかして、この前ファミレスで話してた先輩のこと?」


うっ。


磯村君、ちゃっかり覚えているんだね。


「歌詞に書いたのは先輩じゃなくて、高校の時に好きだった人の事だよ」


高3の時、付き合っていた人…。


「そうなんだ…。歌詞読んでると、結構つらい別れだったのかなって思って…」


「うん…。まぁ…、好きだったからね…」


初めて本気で好きになった人だった。


まさかあんな別れ方をするなんて、思ってもみなかったけれど…。


「まぁ、でもさ…。すげぇいい歌詞だよ。

女の子に共感してもらえると思うよ」


「え…?」


「癒えるといいよな。

歌詞を書くたびに、永瀬の傷が…」


癒える…?


どういう意味だろう?


「俺も、ずっとそうやって来たから」


磯村君は床に置いていたギターを手にすると、ポロンと弦を弾いた。


「悲しい曲を作る時は、悲しい事を思い出して作るんだ。その時はすげぇつらいけど、聴いてる人が喜んでくれるのを見たら、作って良かったって思うんだ」


そうなんだ…。


磯村君も、そうやって曲を作っていたんだ。
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