もう一度抱いて
「ボーカルなんだから、当然でしょ?」


「えーっ、やだー。一体何話せばいいの?」


そんなこと前日になってから言わなくてもいいのに。


「メンバー紹介と曲紹介だけしてくれたらいいから」


何?キョウセイ。


その涼しい顔は。


えーもうっ。


帰ったらカンペ作らなきゃいけないじゃん。


そんなことをブツブツ考えていたら。


「小山もキョウセイも、里桜ちゃんいじめたらアカン。真剣に悩んどるやないか」


私の隣で相原君が顔をしかめて言った。


「里桜ちゃん、心配せんでええよ。このバンドのMC俺やから」


「うそっ」


「ほんまや」


く、くそー。


からかわれていたのか。


本当に胃が痛くなりそうだったじゃん!


「ごめんごめん。里桜ちゃん真面目だから面白くて、つい…」


ついって何なの?小山君。


その横でキョウセイは、ククッと喉を鳴らして笑っていた。

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