禁域―秘密の愛―【完】
「…………綾瀬 瞳さんだね」
「はい………」
「座りなさい、そこに」
黒革の左側の長椅子を指さされ、私は言われた通りに座ることにした。
巧のお父さんは……向かい側に座る。
「5限目は、古文だそうだね。校長先生と担当教員には君を特別欠席にするよう言ってある。だから………その時間は代わりに私の話を聞くようにしなさい」
「……はい」
たった一人の生徒の保護者が………校長先生まで、意のままに操っている。
改めて、目の前の男性がこの学校で…………そして、社会で権力を持っているか認識することができた。
「まずは、君の事から確認させてもらう。綾瀬 瞳さん。特別進学科の3年1組だね。成績は1年の頃から全体で常にベスト20入り。先生や生徒からの評判も真面目で心優しいということだ。
それに特に君のクラスの学級庭園。あれは目に見張るものがある。君がほとんどボランティアで、作ったものだそうじゃないか。驚いたよ。しかも、希望している大学は、白浜女子大学の経済学部か。名門校だね。………なるほど、中々優等生だ」
「…………ありがとうございます」
巧のお父さんの意図はよくわからなかったけれど………取り敢えず褒められた分には感謝することにした。