禁域―秘密の愛―【完】


その真剣な巧の眼差しに、おじいさんが息を呑むのが分かった。

「…………かしこまりました。どうぞ、ご安心くださいませ。どなた様にも言いません」

そう言うと、おじいさんはゆっくりと巧に頭を下げた。
私も、 つられて頭を下げる。


そして、おじいさんの横を通り過ぎようとした時ーーーー

「………驚いたな。 いつもここに来る時は、疲れた冷めた目をして来られていたのに………久々に来たと思えばあんなに真剣な熱い目をするなんて」


そう、微かに彼が呟いているのが聞こえた。 それはどうやら巧にも聞こえていたようでエレベーターに乗り込んだ後、ふと私の方を見た。


「…………瞳のおかげだ」

「えっ?」

「瞳に再会するまで、仕事も恋愛でさえも、全て桐谷家の中にあった。俺の人生なのに………自分の思いのままに行動するということを諦めていた。 だけど、お前と再会して………自分の気持ちのまま動いていると、人として真っ当に生きていると思える」

「巧………」

「瞳、………お前といる時だけだ。俺の心が解放されるのは」


チン………と、音がなりエレベーターが止まる音がする。


その巧の熱い目と、想いを感じた途端、身体全体が燃え上がるように熱くなるのを感じた………。


ーーーー最上階の42階。 巧に手を引かれ、そのまま真ん中にある部屋へと連れて行かれる。


そして、扉を閉めた途端、巧は壁に私を押し付け………


「………んッ!んっ………」

まるで、私を喰らい尽くすように唇を塞いだーーーー



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