禁域―秘密の愛―【完】


「………顔を上げるんだ。 巧君」

しかし優斗は、ほんの僅かな間の後、巧にそう静かな声色で言った。

「しかし………」

「………もう、良いんだよ。 確かに俺は瞳を心の底から愛していたし、添い遂げるつもりだった。
これは彼女にも言ったが………瞳が君と共にいる為に努力を惜しまず、そしてその想いを貫いていた姿を見て思ったんだ。
君を想って、 君の為に動き続ける瞳は俺といた時よりも何倍も………悔しいが輝き、生き生きとしていた。
好きな女にはいつでも生き生きとし、幸せになって欲しいと思うのは当然だろう?
それに、瞳は確かに付き合っていた時は俺を心から愛してくれていた。 最愛の女性に一度でもそう思われた俺はこの上ない幸福をもらったんだよ」

そこまで言うと、優斗はその目を優しげに細め微笑んだ。

「優斗さん………」

「確かに今でも瞳を諦めきれた………とは言い切れない。 あんなに愛した人だから今でも瞳は俺にとっては特別な女性だ。でも、巧君、だからといって俺に気負う必要はない。
………今まで、 散々自分の母の為、会社の為に思いを押し殺してきたんだろう? 良い加減、我儘になったらどうだ?」

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