禁域―秘密の愛―【完】
「巧! 瞳さん!おめでとう!」
「巧に、瞳ちゃん、おめでとう」
次にそう言ってくれたのは………、車椅子を押しながらニコリと微笑む朝香さんとそれに乗っているおばあちゃんだった。
「でも、どう? 巧! あたしってば、また良い女になったと思わない? 」
そう言って、朝香さんは肩までかかった綺麗に巻かれている黒髪をまるで女優さんのようにはらう。
確かに朝香さんは前よりもまた一段と大人の色気が増したというか………綺麗になった。
「あぁ。 また大人っぽくなったよ」
「でしょ? 巧との事が無くなったたん、政治家の二世だのメインバンクの頭取の息子だの、 弁護士だのって言い寄られまくりなんだから! 良い男選び放題よっ」
「まぁ、朝香ならそうだろうな。 仕事の方も順調だろう?」
「もちろんよ! 私の助言が無ければ、あの政治家は前回の選挙敗退してたわね」
そう言って、自慢げに話し強い眼差しで微笑む朝香さんは、自信に満ち溢れていて………輝いていた。
「………だからね、瞳さん」
そして、不意に私の方を振り向いた。
「はい」
「もしね、巧があたしの所に戻ってこようとしても………もうそこには巧の居場所はないのよ! だから………あなたが、巧の居場所になっててよ? ずっとよ?お願いだから!」
強気の姿勢を崩さずそう言って、微笑む朝香さん。
それは、彼女なりの精一杯のお祝いだと直ぐに分かった。
「………ありがとう。 朝香さん。 巧の居場所は私がずっと作っておきます」
朝香さんが精一杯の思いで手放した巧の居場所をずっと作る。
かつて朝香さんが巧を好きな気持ちがわかるからこそ………それを守ろうと誓った。