眠り姫はひだまりで【番外編】
「…だから、ね」
何も言えないでいる僕を、色葉はその瞳でじっと見つめる。
…そして、綺麗な笑顔で、言うんだ。
「私ひとりでも、ちゃんと出来るから。…もう、心配しないで」
…泣く色葉の手を握って帰った、あの頃。
けれどいつの間にか、色葉の手は少しだけ大きくなっていて。
…もう僕は、いらない?
視界が、真っ暗に染まる。
思い出のなかの『あの子』が、無邪気に笑う。
そのとき、僕の手からその小さな手が滑り落ちていくのを、確かに感じた。
*
「先輩、帰らないんですか?」
放課後。
今日も町田さんはしばらく下駄箱の近くで僕を待っていたらしかった。
けれど痺れを切らしたのか、彼女は教室へやってくるなり、机の上に座った僕を見て、そう言った。
「…帰りなよ。僕、まだ出ないから」
夕焼けが赤く染まった、窓の外を眺める。
教室にはもう、僕と柚木以外には誰もいない。