《完結》アーサ王子の君影草 上巻 ~忘れられた庭に咲く誓い~
 華奢で細い指に自身の指を絡ませて手を握り直す。やや強引だが二人で街に繰り出す事になり気分が高揚する。しかしスズランはどこか不安そうな表情だ。

「きっとお店も混んでるよね、大変じゃないかな? わたし戻った方が…」

「心配?」

「心配って言うか、みんな忙しいのにわたしだけこんなに贅沢していいのかな? って…」

「ごめん。無理言って連れ出して」

「そんな! わたし、こうやってライアと二人で街に来れるなんて夢みたいで、それだけで贅沢って言うか……どうしよう…っ、すごい嬉しくて…」

「そうか…! 俺もこうして二人で居れるのはどうにかなりそうな位嬉しいよ。……あいつにも今度礼を言わないとな」

 先ほどはセィシェルに嫉妬心を燃やしたのに、今は幸せそのものでそれこそほんの少し申し訳ない気分だ。

「ねえライア。雨なのに何で誰も傘をさしてないの?」

「大丈夫すぐに止むよ。この雨は年に一度降る祝福の雨(ベンディシォン・ジュビア)だから、皆敢えて浴びてる」

「祝福の雨?」

収穫祭(リコルト・フェスト)では毎年それに合わせて祝福の雨が降る。毎年作物の収穫を祝ってマルティーン帝国が賜ってくれているんだ」

「そうなんだ…! とっても素敵!」
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