『華國ノ史』
 大陸中央に走る山脈。

「断絶の盾」

 
 東西まで伸び、南北に向け幅が広く、標高も高かった。

 
 南北を行き交う商人達にとっては旅の最大の難所であった。

 
 道が険しいだけという訳ではなく山賊、好戦的な山間民族、野犬の群れ等も住み着いていたからである。


 大陸が山脈に向かい押し合いこのような形になったと学者は語っている。


 神話では北の女神が南の男神を嫌った為に作られたと記されている。

 
 山の各地に太古の遺跡が数多くあり、宝が眠るのではないかと多くの者が犠牲にもなった。


 その山に阻まれていた為に華國と煌皇国は大規模な正面衝突をまのがれていたのだ。


 少数部隊ならば越えられる峠は幾つかあったが、

 大国を侵略する数での行進となると、その道は三本に絞られることになる。


 それは分かりやすく言えば、西、東、中央のルートであった。


 中央ルートは両国により防衛拠点が多く築かれ、

 二度に渡る激戦の結果双方に巨大なゲートと要塞が設けられた。


 その為に両国共に進行不可能とされている。


 西側ルートには深い渓谷があり、橋こそ架かってはいるが少し労力を使えば橋を落とし進軍を阻む事が出来る。


 そして現在、最も苛烈を極めているのが東ルートであった。


 多くの古城や破壊された城を応急処置した砦、馬群を阻む為の木柵が至るところに張り巡らされていた。


 深い渓谷ではあったが、その底は広く、多くの植物も自生している。


 現在最も大軍が南北に向け行き交う唯一のルートであると言っても良いだろう。


 大局的に見ても華國西には海岸線沿いに多くの城があり、煌皇国は東を選ぶのが当然ではあった。


 しかし予想もつかぬ北からの襲撃もありこの大山脈での戦場が何処になるかは両軍にとっても多少未知な所もあったのである。

 

 
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