『華國ノ史』

二月会戦

 華國第一王子リンス、第二王子トリートに率いられた一万七千の軍は東の関所を破り、

 雄々しく渓谷を越えた。


 第一次、第二次南北戦争ではお互いに関所内での戦闘だけであったが、

 今回は両軍共に敵領土へ足を踏み入れる事に成功する。


 華國軍は関所が破られた場合に敵を待ち受ける避難所としての役目を担う煌皇国の城を包囲していた。


 その城は東の渓谷を出た所からでも目視出来る距離にある煌皇側の防衛拠点である。


 この城は「重き扉の城」と呼ばれ、戦略の為に作られただけあり、中々優れた機能を備えていた。


 正門だけで無く、城内の戸もしっかりと作られ、立て籠るには最適の城であった。


 関所で敗退した煌皇兵はこの城に留まり、静かに援軍を待つ。


 そこで実質的に軍の全権を握っていたリンスは敵の援軍が来る前に決着をつけるべく一考を案じていた。


 彼は突撃兵を編成すると、その陣容の中央に攻城兵器を据えた。


 彼は本国よりこの城をねじ伏せる為、密かに運搬していた物であった。


「鈍足の訪問者」


 これは大きな丸太が五本組まれ、大きな巨木になっている。


 それは横に寝かされ、先端は獅子の顔を模した鉄の装飾がなされていた。


 大きな車輪がいくつもつけられた巨大な台車に固定され、

 さながら現代の戦車の様相であった。


 この兵器には無数の綱が付けられている。

 
 リンスは第一師団の重装騎馬隊百名と共にこの綱を馬に結び、

 渓谷の坂と歩兵の押し出す力を利用し引っ張り出した。


 一度走り出した鈍足の訪問者は次第に馬に引かれ速度をあげてゆく。


 その後ろを攻撃力の高い第一師団の制圧に特化した彼岸花騎士団と魔法部隊の三強が突撃を開始。


 城からは異様な兵器と騎馬に向け矢が放たれる。


 しかし馬にまで重装甲を施した彼等に跳ね返され続けた。


リンス
「怯むな!我が剣の合図を待て」


 リンスはそう言うと剣を引き抜き天に掲げた。


煌皇兵
「奴だ!黒き鎧に金髪!

 獅子王子がいるぞ!狙え!」


 リンスに向かい多くの弓が一斉に放たれたが鈍足の訪問者に搭乗していた魔法使いによって地面に吸い込まれる様に叩き落とされる。


 大風が起こり矢は全てリンスより前に起動を変えられたのだ。


リンス
「ボール!また来るぞ!」


 ボールと言うこの風使いは魔法部隊の三強の一つ王華隊の隊員であり、

 カトリの父であった。


リンス「今だ!展開せよ!」

 リンスが天に立てていた剣を横に振ると城の正門に向かい走っていた騎馬隊が左右二方に別れる。


リンス
「ボール!乗れ!」

 一足遅らせたリンスの馬にボールが飛び乗り、

 リンスの馬は足を止めた。


 左右に展開した騎馬隊が綱を引きつつ矢の雨降る城壁下を駆ける。


 後方からは凄まじい音を響かせ鈍足とは思えぬ訪問者がそのまま両脇に引っ張られた力を利用し、

 真っ直ぐに門を叩く。


 凄まじいノックは立て籠っていた煌皇軍の不安を掻き立て、

 それは直ぐに悪夢が現実である事に気づかせた。


 煌皇兵の危惧していた通り二重の正門は内側へと破り倒されていた。


 それを見たリンスは自軍の方を振り返ると剣を再度天に突き上げた。


リンス
「私に続け!突撃する!」

 兵力一万七千と六千、しかも華國側は精鋭揃いである。


 正門を破られた煌皇軍の士気は一気に低迷し、 

 その日1日で重き扉は全て開かれる事になるのであった。
 

< 156 / 285 >

この作品をシェア

pagetop