『華國ノ史』
 華國側に被害は殆ど無く、煌皇側は優に二千の被害が出た所で降伏する。


 一撃で重厚な扉を破壊され、人外のごとき強さを誇る華國軍に対し完全に戦意を消失したのである。


 さらにいうと元よりこの東の防衛を担っていたキュバイン将軍に撤退命令が下っており、

 将軍欠場の状態であった為でもある。

 
 捨てゴマにされた防衛兵は捕虜となり早々に華國へと送られた。


 これに憤慨したのがキュバイン本人であった。


 ボーワイルドが奇襲作戦を行っている際に撤退命令が下され、

 本国へと帰還せざる終えなかったのである。


 キュバインは皇帝に直訴を行った。

キュバイン
「何故、この期で私が退却なのですか!」

ブレイランド
「猛将よ、落ち着け。

 誰の前であるか忘れてはおるまい?」

キュバイン
「しかし、前線に将がおらぬとは」

ブレイランド
「わざとだ。
 
 ボーワイルドが奇襲を成功させようがしまいが奴等は必ず報復にでる。

 その時必ず東の回廊を渡るだろう」

キュバイン
「では何故!」

ブレイランド
「引きずり込むのだ。

 敵の領土で戦うよりも、勝手知ったる庭での方が有利であろう?」

キュバイン
「しかし、それならば防衛兵も退却させねば」

ブレイランド
「それでは罠があると教えているようなものではないか。

 大陸を統一するのだぞ?

 ただの戦争では無い!

 大陸の覇権が掛かっているのだ!

 分をわきまえよ!

 キュバイン、貴様に命ずる。

 
 敵が渓谷を越え、我が国に侵入した後、退路を絶て!

 
 残り二将と共に得意ずらした華國の軍を皆殺しにせよ!

 
 これは皇帝であり最高司令官である私の直令だ」


キュバイン
「…かしこまりました。

 ですが、ボーワイルド将軍は必ず帰ってきます」

ブレイランド
「それには私も賛成だ。

 下がれ」

 キュバインは味方を見捨てる皇帝に不信感を抱くが、

 その策略よりも巧い考えが思いつかなかった。

キュバイン
 (私の失態だ…腕ばかりでなく頭を鍛えておけば…

 こんな時にボーワイルド殿がいてくれれば、

 みすみす仲間を見殺しにさせなかっただろうに)

< 157 / 285 >

この作品をシェア

pagetop