『華國ノ史』

王家の誇り、民衆の意気地

 華國の王都は混乱を極めていた。

 慌ただしく走るのは滅ぼされた魔法都市の生き残りクラッシュであった。


 西の関所に大軍が現れたと聞くやいなや、

 南側の要塞に兵を出し、民に各々隠れる様に促した。

 
 ボーワイルドの目的は王都であった為に民と領地への被害はなかったのが、

 クラッシュの唯一の心の救いであった。

 
 しかし、西側の軍は?

 セブン達はどうなった?

 クラッシュはやり場の無い思いであった。

 
 とにかく今は迫り来る敵から王だけでも守らなくてはという思いが彼の足を早める。


 謁見の間には多くの人で溢れかえっている。

 
 誰もが城の防衛策を王に話し、王は真剣な顔で決定を下し続けていた。


 クラッシュは人を押し退け、華國の王ブレイブリーの前に立った。


クラッシュ
「王よ、お逃げ下さい。

 今ならまだ間に合います」


ブレイブリー
「その心は嬉しく思う、が民を置いては行けん」


クラッシュ
「民もそう望んでいるでしょう。

 今はとにかく北へ!

 民は後からついて来ます!」


ブレイブリー
「私は一代で王になった訳ではないのだクラッシュ。

 
 血筋というだけで民衆の王となった。

 
 私が民衆についていっているのだ。

 
 民は何を望む?

 平和を愛する王か?

 血を喜ぶ王か?

 
 どちらも違う。

 
 ここぞという時にこの首一つで民の命を救うかも知れないこの、首だけの王が必要なのだ」


クラッシュ
「そんな事は誰も考えていません!

 皆、あなたを愛している。

 あなたの様な善王を失う訳にはいかないのです!」


ブレイブリー
「そうだ。

 私は常に民衆の求める善き王を勤めて来たつもりだ。


 クラッシュよ、お前に問う。


 良き王は逃げるだろうか?

 
 ここに残るのは王家に生まれ、民に育まれてきた事への責務と恩返しなのだ。


 それは誇りでもある。


 誇りを無くした王は、もはや王では無い。


 誇りを失った男のまま死ぬ事は私には出来ない。


 それに私には信用している息子がいる。

 
 ここで私が逃げれば息子に顔向けが出来ぬからな。

 父であり、王として私はここで戦う。

 死がその扉を叩くまで」

 
 この話しはそこにいた者達から城下町へと流れ、

 話しを聞いた民衆の心は、言葉に出来ぬ叫びとなって街を駆け抜けた。

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