『華國ノ史』
 リンスが布陣していたのは関所中央に広がる開けた平原に位置する砦、

 
「見晴らしの高塔」


 堅固な造りの砦の中央には背の高い目立つ塔がある。

 リンスはここで煌皇軍の足止めを行っていたが、

 全軍突撃を受け、籠城戦を行っていた。


 それを尻目にキュバインは北へと進む。


 怪しく思ったリンスは塔より旗信号で別動隊としていたトリートに追撃せよと告げる。


 ここに陣取ればキュバインも深く攻められず、敵も抜けられぬと考えるのが定石であった。

 
 その全うな考えでリンスはこの時、トリートの軍がキュバインを追うのを見守っていた。


 直ぐに見晴らしの高塔砦に煌皇軍が押し寄せる。


 リンスは不審に思った。


 これだけ無謀な攻めを繰り返せば煌皇側の被害は甚大だ。

 
 何故?今。

 何故?キュバインはあんな自殺行為を。

 頭の良いリンスは直ぐに答えを見つける。


(王都が危ない)

 
 リンスは王に危機が迫るのを予測していた。

 
 しかし、既に目の前に広がる敵の群れの前に、
 
 連戦を繰り返し、劣勢を覆し、傷だらけの自軍を見る。

 
 どうする事も出来ぬ自分に呆れていた。

 
 そして覚悟する。

 
 増え続ける敵兵の前に華國の次期王は覚悟したのだ。

 
 死して尚、華國の栄光を霞ませる事の無い戦いをする他は無いと。
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