好き嫌い。

その3

「実里の王子様、あれからぜんっぜん女と付き合ってないって話だよ。」


アキがカフェで抹茶ラテを飲みながらそう話す。


「あー、聞いたそれ。なんか告られても好きな子がいるからって言うらしいよ。」

…へぇ。



キョトンとしていたら、2人が不思議そうな顔をする。


「実里、気にならない?」
「実里のことかもよ?」


同時に言われて面食らう。
それはない、限りなくない。

「冗談じゃねぇとまで言われたのに、今更そんな都合良くいかないよ。
あたし、そこまで夢見る乙女じゃないし。」


カフェラテをこくん、と飲み干す。

そう。


あの日、全部置いてきたんだから。
こうちゃんを好きという6年間の気持ち、全部。


「大学もいかないで実家手伝いやってカメラマンしてるんだってよ。」

「だろうね。ずーっと手伝いしてたみたいだもん。」


知ってる、そんなこと。

こうちゃんがカメラを手放す時なんて絶対にない。


それくらいカメラが好きなんだっていうのは、ずっと見てたから知ってる。

「もしかしたら、っていうのはないんだ?彼氏とも別れたんでしょ?じゃあアプローチしてみたらいいじゃん。」



…アキちゃんてばもう。

「アキちゃんはさ、遠藤君とずっと仲良くやってきてるから、そんな簡単に言うんだよ。無理だもん、絶対。」


もうあんな風に傷付きたくない。



好き、って思ってるだけじゃ済まなくなってるから。



全部欲しいの。



心も。


身体も。



だから、手に入らないならいっそのこと全部忘れる。



「あたし、今度はなしてみようか?実里のこと。」


アキちゃんがニコリと笑う。


あたしは…苦笑いしか出来なかった。


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