好き嫌い。
「好きだ。」



離れた唇が、触れるくらい近いところで呟く。


夢のような一言を。


「俺は実里が好きだ。

音楽室で楽しそうにピアノを弾いていた実里も、俺に好きだって真っ赤な顔して告白してくれた実里も、今ここでこうしてる実里も、全部…全部好きなんだ。」


嘘ばっかり。


沢山彼女が居たの、知ってるんだから。

あたしなんかに興味ないってわかってたんだから。


「ごめん。あの日からずっと後悔してた。実里に冗談とか言った…あの日から。


ホントはすっげぇ好きだったんだ。

カメラより好きだった。


だから…実里が見ていた風景に気付いた。

お前が弾くピアノが好きになった。


だから…いなくなった時、どうしたらいいのかわからなくなった。」


嘘だよ、そんなの。


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