好き嫌い。

その2

「今さっき、誰と話してたの?」


ひと騒ぎした後、シャワーを浴びてきた実里は先ほどの疑問を康太に投げかけた。

「あー、ミノリの携帯が鳴ってたからさ。」

「出たの?」


問うと、それがどうした?といった顔をする。

「アキってミノリの友達だったから出たよ。今日の予定のことだった。俺も一緒に行くよ。」


冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲むと、そう言ってミノリの髪をクシャクシャっとする。


「ミノリって髪がめちゃくちゃ綺麗だよな。」


褒めながらぐしゃぐしゃにするんですか…。


「中学生の時さ、ミノリの後ろ姿見るの好きだった。」

「後ろ姿?なんで?なんか顔を見たくなかったとか?」


不思議に思った実里が問いかけると、ククッと低く笑った康太はミノリの体を抱き寄せた。


「ミノリが俺から逃げてたんだろ。
俺をみるとどっかに行ってしまう。だから後ろ姿だったんだ。」


見上げると、康太は笑顔だ。


そうだ。

あたし、あの頃ひたすら逃げてたんだっけ。

康太を見るのが辛くてひたすら背中を向けてた。
…その背中を見るのが好きだったなんて。


「もぅ…負けるなぁ。好きよ、康太。」


めいいっぱい背伸びしてもなかなか届かない康太にキスを贈る。


「年上でもいいの?」


「ミノリは年上に見えない。」


…小さいからかっ、と言いたかったけれど。
本当に小さいから、反論しない。


「幸せになろうな、ミノリ。」


お姫様抱っこされて囁かれて。


もう、嬉しくて死んじゃいそう。

< 50 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop