好き嫌い。
「お母さん、ようやく捕まえたミノリを俺は離したくないんです。
ミノリと一緒に住んでもいいでしょうか?
もちろん、結婚を前提にです。
今の所では狭いだろうから、場所を探して。」


急に真面目な顔をして母親に向かい話し始めた康太。

実里はただ黙って聞いているしかできない。


「お父さんがうるさいと思うわ。
一人娘でしょ?いきなりはダメだって言いそう。」


確かに。


ああだこうだうるさいのはいつものこと。

「場所を探すまでの間に、お父さんとも話をさせてください。」


こういう話をしてる康太はかっこいい。

凛々しい、っていうのかな。


「あ、康太。アキとの約束の時間まで間がないよ。急ごう。」


あと1時間もしたら、アキの結婚式の打ち合わせだ。


実里は演奏の。


康太は写真撮影の。


「また日を改めてお伺いします。」


立ち上がり頭を下げた康太に、母はポン、と背中を押す。


「実里の初恋が上手くいくように、あたしも協力するわよ。

奥井くん、これからも実里のことよろしくね。


なるべく早くに孫を抱きたいわ。」


ふふん、と含み笑いする母を見て冷や汗がでる。


「行こう、康太。」

「お母さん、孫、楽しみにしててくださいね。必ず近いうちに抱っこさせてあげますから。」



…‼︎


な、何てこと言うの!


「じゃあ、また。」


玄関先で頭を下げた康太を見て、ため息が思わずこぼれた。


「もう…孫だなんて。康太も言い過ぎよ…。」


拗ねるように俯き、先を歩いていた実里の手を引き、隣に並んで歩く康太。

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