好き嫌い。
「助けてあげようか?」


不意に声がして振り向いた。


そこにいるのは見たことのない人。

「事情があるみたいだけど…話を聞いてあげる。おいで。」


差し出された手に。


絶対普段ならついていかない。

そう感じながらも手を重ねた。





「シャワーあるから汗と汚れ、落としておいで。バスタオル、使って。」


手渡された真っ白なバスタオル。


海の家?

なんていうのかな?喫茶店?

連れて来られたのはそんなお店だ。


「じゃあ、お言葉に甘えて…」


「あ、服は海水にまみれてたから、これどうぞ。俺の嫁さんの服だけどないよりマシだよね。」


ふわりと笑う男性。

中性的な彼が【俺】と口にしたのが不思議だった。


「…あ…ありがとうございます…すみません、甘えさせて頂きます…。」


服を受け取り案内されたシャワールームに入る。


「出たらさっきのとこにおいで。
何か飲み物作っておくから。」


柔らかな雰囲気の笑顔。

安心してしまってる自分に驚いた。


頷くとシャワーを浴びに行く。


全部洗い流したかった。

見たものも…今までのことも。



涙を流しながらシャワー浴びるなんて思いもしなかった。


なんでなの。


こんなことなら、あの再会した日に気持ちを解放しなければよかった…。



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