危険なキス
 
《ようやく動いたか》
「え?」
《なんでもねー》


独り言のようにつぶやいた先生の言葉は、あたしには理解できなかった。

だけど、なんでもないと言われたら、それ以上何も突っ込めない。


《で?なんか用?》
「あ、の……明日…空いてませんか?」
《なんで?》


なんで、と言われると、すごく困る。

確かに、付き合っているわけでもないから、用もないのに休日の都合を空けるわけにもいかないいだろう。

でも、あたしが先生に会いたかった。


「勉強っ……教えてもらいたくて……」
《あ?》
「えっと……だって湯浅先生の教え方が、やっぱり一番わかりやすいから……」


これは本当だった。

学校の先生や、予備校の先生よりも、湯浅先生が一番分かる。


《なんで休日に、わざわざお前の勉強見ねーとなんねぇんだよ》
「そ、れは……あたしが受験生だから……」


あたしだって、本当は遊園地や水族館とかに誘いたい。
だけど付き合ってもないし、それに現実はやっぱり勉強しないといけない身。


でもそれって
どう考えたって、あたしだけの都合だ。
 
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