君が好きだから嘘をつく
「私がね、健吾のそばにいて幸せでいられるのはほんの一時なの。健吾には好きな人がいて、それは忘れちゃいけないことで。同じ職場にその相手がいれば2人でいる姿も見ることは当たり前だから。私の幸せだった気持ちなんてあっという間に吹き飛んじゃうの」

自分に言い聞かせるように一気に言葉にする。

言い切って自分で納得するようにうんうんって頷く。

そんな私に英輔が右手を伸ばして頭の上に乗せて少し左側を優しく撫でてくれた。

「そっか・・。頑張っているんだな」

囁くように言ってくれる英輔の瞳を見ると、優しい顔をしている。
学生の頃見てきた顔じゃなくて、27歳の大人になった英輔の笑顔。

大人になったんだね・・

「う~ん、私頑張っているのかな?」

「好きでいる為に頑張っているんだろ?」

「そっか・・」

何となく納得できた。
好きでいたいから気持ち隠して嘘をついているのかもしれないな・・
英輔に教えられるなんてね、何か苦笑してしまった。


窓から見えるそんな2人の姿を、店を少し過ぎた所から見つめていたのは・・・健吾だった。


会社を出て駅に向かう途中、コーヒースタンドを通り過ぎる時窓越しに楓の姿を見つけた。
その向かいに座る男の姿も。


いや、その男が楓の頭を撫でていた。それを見た瞬間瞳が大きく開いた。


その場で立ち止まることができず、視線だけを2人に向けて。
でも店を通り過ぎた後、思考とは反対に足が止まった。
明るい店内から外で見つめている健吾の姿に気付かず語り合っている。


振り返って2人の姿をジッと見ている健吾の瞳は冷たさが混じっていた。


そして視線を断ち切りその冷たい眼差しのまま駅に向かって歩き出した。

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