君が好きだから嘘をつく
「本当は伊東さんのこと送って行きたかった?」

「う~ん」

健吾はちゃんと答えず、横目で視線だけこっち向ける。
それじゃあ答えになってない。

「そんなんじゃ、彼氏から奪えないじゃない。バ~カ」

「うるさい、バ~カ」

軽口を叩き合いながら歩く。

「そういえば伊東さん、美好のこと気に入ってくれた?」

伊東さんに気に入って欲しいなんて思っていないのにそんな質問をしてしまう。
自分で言いながら動揺してバカみたい・・・

「うん、料理も美味しいし雰囲気がいいって言ってたよ。おばちゃんも優しいって。ああ、でもおばちゃん今日はあんまり元気なかったな」

「そうなんだ・・・」

おばちゃんが元気なかったって聞いてドキッとした。
私を追いかけて来た時のおばちゃんの顔を思い出す。私の気持ちを察知して心配した顔してた。
後で謝りに行かなきゃ・・・

気がつくとアパートのそばまで来たので、最後に健吾に質問をする。

「ねえ、健吾。健吾にとって特別な場所ってどこ?」

「特別な場所?う~ん・・いきなり聞かれてもなぁ。そうだな・・ああ、美好は俺にとって特別かな?おばちゃんに癒されて食事も馴染んでいるし、第2のおふくろの味ってやつだな。楓とも通い続けて、自分をさらけ出している特別な場所だね」

嬉しそうに話している健吾を見ると、また複雑な気持ちになる。

   【だったら伊東さんを連れて行かないでよ】

心でつぶやきながら、健吾の言葉に頷く。

「同じだね、私も特別な場所は美好だよ」

「そっか、そうだよな。でも・・何で急に特別な場所とか言い出すんだよ?」

「ううん、何となく」

理由を話すつもりはないから軽く答える。私も・・ずるいね。
そうして話しているうちにアパート前に着いたので、健吾と向き合いお礼を言う。

「ありがとう健吾、わざわざごめんね。お茶でも飲んでいく?」

「いや、楓疲れているみたいだし今日は帰るよ。ちゃんとゆっくり休めよ」

優しい顔して言ってくれる。今はその優しさもちょっと辛い。

「うん、わかった」

「じゃあ、おやすみ」

「気をつけて帰ってね」

「俺、男だから」

笑って手を振って歩き出す健吾に、私も思わず笑ってしまう。

「でも、気をつけて。おやすみなさい」

「わかったよ」

1度振り返って手を振り帰って行った。
その後ろ姿を見つめ続け、去って行く健吾の姿に寂しさを感じる。

本当は帰らないで欲しい。でも見送るしかないから、健吾の姿が見えなくなるまで見つめ続けた。


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