君が好きだから嘘をつく
「言われなくても帰ってますよ」

「そうだよ、走って早く帰れよ」

笑いながら健吾が言う。
嘘でもいいから『来いよ』って言って欲しい。必要として欲しい。

「じゃあ・・また明日ね。あまり遅くならない程度に頑張って」

「うん、わかった。楓も気をつけて帰れよ、夜中なんだから」

「はい、じゃあね」

「じゃあな」

電話を切ってそのまま握って歩きながら、明日また健吾に会うことを想像する。
会えるだけでもいいのかな・・声が聞けるだけでもいいのかな・・近くに居れば笑顔を見ていられるのかな・・近くに居れば苦しい思いだけじゃなく私も笑顔になれるのかな・・

近くにいるか・離れるか、私にとって一番いいのはどっち?

迷っていくら悩んでも答えが出ない。
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