君が好きだから嘘をつく
嘘の終わり
冷たい風に髪が乱され、、風圧に耐えて体に力が入る。

「う~、寒い。早く戻ってコーヒー飲みたい」

乱れたまま揺れる髪を手でおさえながら、早足で会社に向かう。
もう少し早く帰社するつもりだったけど、取引先の担当者の都合でアポイントしていた時間がずれた為、今日の予定は大幅に変更をした。

冷えた体を縮こませながら会社のそばまでたどり着き、横断歩道の信号待ちしているとすぐそばから言い争う声が聞こえてきた。
その声が気になり視線を送ると、カップルらしき男女がもめている。
男は女の手首を握りながら、女の顔を覗き込んでいる。
俯いた女の顔は髪の毛で顔が見えなかったが、次の瞬間強い風に髪がなびかれて可愛い顔が見えた。

「あっ、伊東さん?」

驚きのあまり声に出てしまい、それは彼女らの耳に届いてしまったようだ。
名前を呼ばれた伊東さんは、俯いていた顔を上げこっちに視線を向け、同時に相手の男も視線をよこした。

「柚原さん!」

驚いた顔を見せ、言葉を発っしたまま少し口が開いている。
私の方も彼女らの放っている空気に気まずさを感じて、笑顔のひとつも出せない。
瞬間的に『この場を立ち去ろう』と心の声が脳内を巡る。

タイミングよく信号が青になったらしく、同じように信号待ちしていた人達が歩き出したのを感じた。

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