君が好きだから嘘をつく
諦めと未練
終わっちゃった・・恋の終わりなんて簡単に終わってしまうものなんだ。

長い年月想っていても、片思いなんて一瞬で砕け散ってしまう。
残る物は、どこまでも深い悲しみと行き場のない積み上げた気持ち。
次々に溢れる涙は、自宅に戻り嗚咽しきっても意思とは別にゆっくり流れ続けた。
長い時間が過ぎて涙の乾いた目尻をぬぐいながら、着たままだったコートを脱いでベッドに横になった。
目を閉じて無になろうと思っても、健吾の顔が浮かんでしまう。打ち消そうと目を開けても視界が鈍り、またボーっと考えてしまう、健吾のことを。

「健吾・・」

思い出ばかりがよみがえり、悲しみの感情に襲われ泣いても泣いても繰り返す。

「・・健吾・・・」

もう伝えられない想いが、頭に胸にパンクしそうな程広がって、ただ名前を呼び続けた。
眠れない夜はそのまま過ぎて、カーテン越しに朝日を感じてベッドから起き上がる。
時計を見て一瞬焦ったけど、今日が土曜日だったことを思い出しホッとした。

「よかった・・・」

思わず声に出てため息が出る。
こんな気持ちで職場に行けない。仕事だってできないし、今は健吾にも会いたくない。
それに今の自分の顔も想像できる。かなり酷いだろう。
目の周りは涙の跡でカピカピしている。もちろん瞼も腫れに腫れているはず。それに化粧だって落としていない。
鏡を見るのも怖い。
いろんな意味で今日が休みでよかった。そして明日も。

   -この2日間でなんとか気持ちを落ち着かそうー

目を閉じてそう心に言い聞かせた。
そして深呼吸して立ち上がり、クローゼットからバスタオルと着替えを取り出してバスルームに向かう。
服を脱ぎ、シャワーを頭から浴びた。冷えた身体に熱いお湯が気持ちよく染み込んでいく。

このまま健吾を好きだった気持ちも、辛い気持ちも流してしまいたい。
そんなことできないって分かっているけど、何度も何度も顔を拭いながら全身で流れ続ける熱いシャワーを浴びた。

< 157 / 216 >

この作品をシェア

pagetop