君が好きだから嘘をつく
幸せはここにある
おばちゃんに見送られながら美好を後にした。遅い時間になり、歩いている人はほとんどいない。
4人はまるで学生のように横に並んで他愛無い会話をしながら、駅へと向かった。
改札を通り健吾と楓は下りホーム、隼人と咲季は上りホームと違う為、一度立ち止まり健吾が咲季に声をかけた。

「じゃあ俺達は向こうなんで。今井さんは帰り大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫大丈夫」

そう答えたと同時に隼人も言葉を挟んだ。

「大丈夫だよ、僕が送るから」

その言葉を聞くとすぐに咲季が慌てた様子を見せた。

「大丈夫だってば!いつも飲んで帰る時はもっと遅かったりするんだから」

そんな咲季の訴えも流すように隼人は「はいはい」と幼子に言い聞かせるように苦笑した。そして咲季の背中を支えるように押しながら歩き出し、健吾と楓に「じゃあ、またね」と笑顔を見せて、階段を下りて行った。
それでも「ちょっと!」と咲季の怒った声も聞こえてきたけど、隼人になら任せて大丈夫だろうと健吾と楓は、目と目を合わせて笑いながら歩き出す。
ホームに立って楓は咲季と隼人のいる方を見て見ると、まだ何かもめている様に見えた。

「ねぇ、咲季先輩と澤田くんまだ何かもめてるみたいだよ」

そんな楓の言葉に健吾は呆れた顔を見せる。

「隼人が今井さんをからかって怒らせているんじゃねーの?あいつああ見えて結構Sなとこあるし。人の事からかって笑ったりするしな」

「そう?私にはそんな感じに見えなかったけどな~。いつも優しかったし」

「まあ、あいつも人選んでいるんじゃん?」

健吾が可笑しそうに言っているのを聞いて、楓は隼人の今まで自分への優しかった言葉や態度を思い出していた。

「何か意外だな」

「うん、あいつは意外なことだらけで色々と驚かされるよ」

「へ~」

「だって、あんなにもてていくらでも選び放題なのに片思いしてるらしいしさ」

「ん・・あ~そういえばそんなこと聞いたことあるな。やっぱり澤田くん好きな人いたの?」

そう、前に澤田くんと話した時にそんなこと言っていた。ハッキリとは言ってなかったけど、あの澤田くんが片思いだなんてやっぱり意外。

「そうだろ~。しかもその片思いの相手は嘘つきだって言っていたし。どんな人だよって思わない?本当あいつの考えていることは、さっぱり分かんねー」

「ふ~ん、でもさ何かいいんじゃない?澤田くんもちゃんと好きな人がいるなんてさ。彼女がいないなんてもったいないって咲季先輩といつも言っていたんだ」

「嘘つきとかそういうのは本当か分からないけど、俺もあいつがどんな人好きになったのか見てみたいな」

そんなことを話しているうちに、電車が来たので2人で乗り込んだ。そして並んで座り肩を寄せる。
この空間を楽しみ、触れた指先は優しく包まれることで温もりを得る。そして嬉しさでつい口元がほころぶ。
そんな甘い時間を過ごしていると、メールの着信音が聞こえた。

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