君が好きだから嘘をつく
「それで?近藤とは一緒だったの?」

「ううん。澤田くんが近藤くんを連れて行ってくれたから一緒に帰っていないよ。さっきまで咲季先輩と飲みに行っていたしね」

「ん?澤田が?」

驚いたように健吾が聞き返してきた。

「あ、うん。私が近藤くんの勢いに困っていたから、間に入って助けてくれたみたい」

「なんだよ、あいつ~。俺が聞いても知らないって言っていたのに・・・でも驚いたな、近藤が楓を誘うなんてさ。そんなに真剣に誘うってことは、あいつ楓のこと好きってことだよな?」

そんなこと聞かれても困る。嫌だ、そういう事を健吾から言われるのは。

「好きかとか、そんなこと私には分からないよ。ただ食事に誘われただけなんだから」

「でも好きじゃなきゃ個人的に誘わないだろ?近藤は軽く声かける奴じゃないって楓だって分かっているだろ」

いつもの健吾より少し口調がきつく感じて、楓は少し驚いた。

「分かってるよ・・・」

うん分かってる、分かっているよ。でも、どうしようもないじゃない・・
こんなこと健吾と話したくないのに。それなのに健吾は話続ける。

「楓を誘った近藤も、2人の仲はどうなんだって聞いてくる染谷も、楓の事が好きなんだと思うよ。他にも誘ってきた人いるだろ。楓は?好きな人いないにしても、気になる人っていないのか?」

「・・・うん」

言えないよ。そんなの答えようがないもん。
健吾が好きで、健吾だけが気になって、私の答えはずっと変わらないよ。
言葉に出せない気持ちで胸が熱くなっていた。

「そっか」

健吾はさっきの自分の言い方に気付いたのか、少しずついつもの口調に戻っていた。

「今まで俺が相談することがあっても、楓からはなかったよな。誰かを気になるとか、好きになったとか聞いたことないし。俺は愚痴を言ったり、嬉しくてのろけたりするのは楓だから言えるんだし。俺、楓にも言って欲しいよ。楓に幸せになって欲しいって思っているよ」

そんな言葉をきいて、胸の真ん中がギュっとなった。

   
   -幸せになって欲しいって、そこに健吾がいないじゃないー


他の誰かとじゃだめなのに・・。健吾じゃなきゃ嫌なのに。

涙が少し浮かんできたので、気付かれないように小さく息を吸い込んだ。
< 22 / 216 >

この作品をシェア

pagetop