君が好きだから嘘をつく
「それで、最近の楓のため息の理由は何?山中くん?」

咲季先輩が本題に入る。咲季先輩に隠すものは今更ない。

「いえ、健吾じゃなくて・・・う~ん、健吾のことはいつも頭にあるんですけど。来週幼なじみの結婚式に行く予定で、そこで会いたくないと言うか・・苦い思い出の人に会ってしまう予定なので気が重くて」

「会いたくないって元彼?」

咲季先輩に隠すものは今更ないとか思いながら、遠まわしな言い方をしてしまい勘違いさせてしまっている。

「そうじゃなくて、昔好きだった人です」

「ああ!前に言っていた男友達?」

そう、咲季先輩には昔の失恋話は言ってあったからすぐ理解できたみたい。

「中学生の頃から仲良くなって高校生の時に告白したけど振られちゃって。友達関係も破綻してしまった人に会った時に、どう接すればいいのかわからなくて」

これが簡潔にまとめた今の悩みだ。
一言で言えば気まずい、こんな気持ちでいるのは私だけかもしれないけど私は真剣に悩んでいる。
咲季先輩はそんな私の気持ちをちゃんと理解してくれたようで、うんうんと頷きながら私の言葉を聞いてくれた。

「好きになった人とは友達にならないって楓の心に決めさせた男ね。それでだとうとう会う機会が来たわけだ。そっか・・・嫌いじゃないけど会いたくない人ね、でもさ高校の時じゃ10年近く経っているわけでしょう?失恋した時とは違って、会って話してみればまた違う空気を感じるんじゃないかな?お互いもう大人だしさ。仲いい男友達だったんでしょ?身構えないで素の楓で相手を見てみなよ。今の楓は素敵な大人女子だよ」

こうやって咲季先輩はいつも勇気付けてくれる。
私のトラウマになってしまった原因の英輔に会う緊張と不安を解いて違う可能性を見つけてくれる。
確かにあれからもう10年経つのだから自分が思うほど悩むことないのかもしれない。

笑顔は出せなくても、『久しぶり』って自然に言うことくらいできるかな?話せたらいいな・・・少しそう思うことができた。

「素敵な大人女子ではないけど、うん・・頑張ってみます」

「よし!えらい!じゃあ、楓の頑張りに乾杯!」

「乾杯」

カチーンっと2人笑顔でグラスを合わせた。
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