君が好きだから嘘をつく
「さっきの人はね・・友達だけど・・・昔好きだった人。でも告白して振られたの。すごく仲良かったけど、振られたっきり話もしていなかったの。それで10年振りに結婚式で会って、さっき少し話をした。それだけ・・笑わないでよ?言いたくないことだったんだから」

ちょっと上目遣いで伺うように健吾を見てみる。
こっちは向いていなかったけど、小さく頷いているように見える。

「笑わないよ」

そう言った後、ちょっとだけこっちを見た。

「でも、何か・・そういう話初めて聞いたな。楓は誰かを好きになったとか今まで言わなかったし。いつも俺が聞いても何となくはぐらかしていただろ?もしかして・・今も、あいつのことが好きなのか?」

「まさか!」

とんでもないことを言い始めた。誤解もいいところ。
『私が好きなのは健吾だよ!』って口に出せない想いを心で叫ぶ。

「私の事は恋愛目線で見てなかったって言われて終わった恋だよ!私もふられた後は避けちゃって、友情も壊れたんだから。今も想っているなんてありえないよ」

首を振りながら必死で否定する。
確かに私が好きな人の話なんてしていなかったから、こんな訳ありの話をすれば今も気持ちを引きずっているって勘違いするかもしれないけど。
違うよ違う。

「でも向こうはどうなんだろうな?気になっているんじゃねーの?追いかけて来るくらいだからさ」

「それはないよ、ただの同級生。私の中では過去の事だし、未練の気持ちは全くないよ。今日は久しぶりに会って、昔振られた後気まずくなって避けてしまったことを謝っただけ」

はっきり言い切れた。
何を勘違いしているのか分からないけど、健吾にちゃんと伝えたかった。

「そっか、何か余計なこと聞いてゴメン」

少しションボリした顔をチラッとこっちに見せて、謝ってくれた。

「本当だよ~、人の過去の失恋まで話させて。古い傷なんだから」

ちょっと怒った顔を見せると、健吾も困った顔をする。
その顔が可愛いくて、すごく愛しくて、バレないように笑ってしまった。
そしてバッグの中に入れてあったミントキャンディーを1つ取って袋から取り出して、健吾に『はい、あ~んして』っと言ったら、『え?』っと言いながらポカンと口を開いたので、そこへにポン!とキャンディーを入れた。
一瞬驚いた顔をしたど、少し口の中で転がして『うん、うまい』って笑って言った。
これって昔当たり前にやっていた事、でも最近意識して出来なかった事。
2人で海にドライブした時もできなかった。
でも今、何か自然にできて健吾の笑顔も見ることができてよかった。

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