君が好きだから嘘をつく
優しい協力者
咲季はパソコンから視線を移し、今帰って行く健吾の後ろ姿を見送った。
楓が帰ったのと入れ替わるように戻ってきた健吾に、意地悪な気持ちを込めて楓が男に誘われて帰って行ったことを伝えた後、仕事をしているふりをしながら健吾の様子を見ていた。
楓が誘われたり、他の男と会うことをどう感じるのか確かめたいって思ったから。

嘘は伝えていない。

長い間想い続けてきた楓が、何か諦めの顔や言葉を言い始めてきたことを最近感じていたから姉心として健吾を刺激してやりたいと思ったのだ。
余計なことかもしれない、そっとしておいた方がいいのかもしれない。
でも今日楓が昔好きだった人に誘われたことを聞いて、嘘じゃない真実で彼の気持ちを確かめたかった。

「面白い反応見れましたか?」

突然声をかけられた。

『え?』っと周りを見渡すと部屋にいるのは、近くの席にいる澤田くんだけだ。
彼はさっきからずっとパソコンに何か打ち込んでいて、今だってこっちを見ているわけじゃない。
でも明らかに今の声は澤田くんだった。

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