隣の席の西城くん
高野
高野ですが。
最近面白くないわ。
何が面白くないって・・・
弥生の隣に!あのヤローがいることが!!面白くないわ!!
「西城!」
「ん」
顔を上げない。
手元ばかりに目を向けて、あたしをあたしだと横目で確認したくらいで終わった。
「こっち向きなさいよ」
「あ、今ちょっとダメ」
嘘つけ。弥生からならいつ呼ばれても顔上げるじゃないの。
「弥生のことで話があるからこっちを向きなさい」
弥生、というワードに反応して、渋々指を止めた西城は、ゆっくりとあたしを見た。
くっ、綺麗な顔立ちしてるのも癪に障るわ!
「・・・あたしは、弥生と小学校から一緒なのよ」
「へぇ」
なによその返事。
小学校の弥生はそれはもう可愛くて仕方なかったわ。
表情は今より乏しかったけれど、男子からラブレターももらったりするくらい可愛かったんだから!首を傾げて隣の下駄箱に入れてたけど!!
でも、あたしの方がモテた。
女の子の一番人気の男の子があたしを好きだったせいで、あたしは女の子たちからいじめられたわ。
くだらない、ほんとくだらない。
そのとき、加担しなかったのが弥生。
放課後の教室で、偶然二人になった時、なんとなく敵でも味方でもないことが得体が知れない人間みたいに気味が悪く感じて、あたしはつい噛み付いた。
「い、いじめるならいじめなさいよ!」
でも、弥生はあたしをいじめたりしなかった。
「え、いじめられたいの?」
「?!ち、ちが・・・」
「あのね、いまちょっといそがしいから、しずかにしててー」
むしろ、眼中になかったの。
教室内に設置された水槽の中、泳ぐ魚を目で追うことに夢中になってた。
その日のあたしは、無視されたような気持ちになってしまって大泣きしたけれど、次の日から弥生の近くに居ることが好きになった。
無視ってわけでもなく、友好的ってわけでもないけど、自分を受け入れてくれていることをなんとなく感じていたのだと思うわ。
「居心地がいいんだよね」
「そうなのよ!」
「それになんだかんだ自分の趣味に興味持ってくれたり」
「そっ・・・分かったような口聞かないでくれる!?」
こいつは笑わない。
弥生だけに笑顔を向けるその感じが、得体の知れない人間みたいで気味が悪い
。
「・・・あんた、弥生のどこが好きなの」
「秘密」
「好きってことは否定しないのね」
「もう言っちゃったし」
「は、あぁぁっ!!?」
頭を鷲掴みすれば、痛いとうるさいを繰り返す。
「へ、返事は!」
「もらってない。『好き』って言っただけだし」
「・・・そう」
・・・いつも通り、ゲーム画面に目を落としている。
弥生も弥生で、何もなかったように西城に接している。
そんな事件があったなんて微塵も感じさせない二人に、なんとなく悔しくなってきた。
「西城、あたし決めたわ」
そう言ってみても、何の反応も来ない。別にいいわ、想定内だもの。
「西城よりももっと弥生を大事にするわ」
「・・・・・・それ何の宣言」
ゲームを止めた手に勝ったような気持ちになりながら、見上げてくるその目を見下ろした。
「弥生がほしければ、あたしを倒してからにしなさい!」
しばらく固まってこちらを見ていた西城は、ふっと笑って「わかった」と一言。
・・・今、笑ったわね。なんだ、笑えるのね。
ん。なんだか、以前にもこんなこと誰かに向けて思ったことがあるような。
「いーずみー、トトせんせーが放課後来なさいって」
聞こえてきた声に、考えていたものは全部すっ飛ばしてそちらへ駆け寄った。
「どこいってたのよ弥生!あたしを置いていったわね!」
「連れて行く理由がなかった」
「寂しい!!」
弥生に抱きつきながら横目で西城を確認すると、私の視線に気付いたのかこちらを一瞬だけ見てから、すぐにゲーム画面に目を戻した。
・・・やっぱり弥生の隣りは、まだあんたなんかに渡さないわ。