隣の席の西城くん
教科書
私ですが、科学準備室にいます。
「出ていかないね」
「そうだね」
科学の授業が終わり、使ったものを片付けていたら、なんとなく出られなくなりました。
「隠れてゲームしてるとか、ぜってぇエロゲーだってぇ!」
「キャハハハハ、だよねー!」
科学準備室のドアの前に三角座りをしながら、同じように隣に座るその人の手元を確認する。
「・・・エロゲじゃないから」
「うん。まぁ、なんとなくわかってたけどさ。一応ね」
西城くんは納得していないようなジトっとした目で私を見てから、すぐにゲームに目を戻した。他人に無関心な西城くんでも、流石に自分の悪口言われているところに出ていくなんてことはできないらしい。あいにく私は、可愛いげのない図太い神経を持っているので、いかなる状況でも出ていこうと思えば出ていけるけど・・・そこは出ていく空気を逃した、というところだ。
西城くんがやっているゲーム画面には、ネコみたいな何かのキャラクターが喋っているところだった。
「・・・可愛い」
「え?」
「このネコみたいなキャラクター可愛い」
「・・・これ犬」
あ、これも可愛い。アルマジロ?
違う、カメ
見えない
や、よくアルマジロ出てきたね
しばらくそんなどうでもいい会話を繰り返してから、再び準備室の外に耳を傾ける。
「あいつさ、何気に勉強できんだよねー」
「マジで?あ、友達いないからゲームか勉強しかすることないんだよ」
「うわ、それ笑える!」
ほほう。
確かに西城くんは、先生から当てられてもするりと答えてしまうし、聞いていたの?というような会話を聞いていたりする。
「友達いないの?」
「え、普通そういうの、本人に聞く?」
「え、聞かないもん?」
「・・・ふ」
あ、笑った。
「はぁー・・・もういいや。退いてくれそうにないし」
「出るの?」
「うん。隣の席の人が、教科書忘れたみたいだから」
教科書忘れた隣の席の人って私なんですけど、なんで忘れたって知ってるのだろう。でも今日、由希とそんな会話をしたようなしていないような。
「次の授業始まる前に、資料室にある予備の教科書パクってきてあげようかなと思って」
言いながらゲームの電源を切って、立ち上がった西城くんに続いて私も立ち上がった。
「・・・・・・いらないと思うよ」
「・・・いらないの?」
びっくりしたような、少し寂しそうな、そんな中途半端な表情を見せた相手に、「目が合った、珍しい」なんて全然違うことを考えていた。
「その人、たぶん隣の席の友達に見せてもらうから。大丈夫」
「・・・ふぅん、そっか」
ちょっと図々しかっただろうか。
友達、で良いのだろうか。
「そっか・・・じゃあいらないね」
・・・良さそう。なんだか嬉しそうだし。
「・・・」
「笑ってる」
「笑ってない」
「え、私の気のせい?」
その私の問いには何も答えず、代わりに少しだけ振り向いて目を合わせると、すぐに前を向いた。まったく、その反応じゃどちらかわからない。
そうして西城くんは、何事もなかったように科学準備室のドアを開けた。