隣の席の西城くん

机の真ん中に教科書が置かれているけれど、正直あまり見ることはない。
ほとんどは先生の配ったプリントに始まりプリントで終わる、この学校のリスニングの授業はそんな感じ。
教科書の持ち主をチラリと横目で見ると・・・そちらも教科書はいらないらしい。というより、西城くんは全教科の教科書がいらないのではないだろうか、と思うくらいには、毎回机の下で、ゲーム機の光が七色に光っている。



「じゃあ、次の問を・・・西城!」

唐突な声に、私はハッと顔を上げる。・・・この授業の先生は本当に意地が悪いな。授業を聞いていた私や他の生徒にとっても、なんの脈略もない唐突すぎるその言葉に「どこの問題?」と思ってしまう。
ゲームをやっていて聞いてないんだろう?というようなにやけ面を、隠すことさえしない先生に、呆れてため息が出る。


「わかりません」


ゲーム機から顔をあげた西城くんは、仕方なく立ち上がりそう言った。
やはり、授業聞いていなかったらしい。



「授業をしっかり聞いていないからだ。これに懲りたら・・・」
「あ、いえ、どこの問題か分かりません」
「?・・・だから、授業を聞いていれば」
「聞いてました」

「あの、先生。今の説明だけで解ける問題がありません」


クラス委員長が手を挙げてそう言ったところで、西城くんはいそいそと椅子に座り、今度はゲームを机の中にしまいこんだ。

その西城くんの様子を見ていた先生は、そこでやっと「西城くんが授業を聞いていた」と分かって顔を真っ赤にしている。
この一連の流れで、私は、先生はどうしてそう巡りめぐって自分にかえってくることをするのだ、と密かに本日二度目の呆れたため息がでた・・・。
きっと委員長もそう思ったに違いない。



「んんっ、授業を続けるぞ!」


はぁ、変な空気になったなぁ・・・。
それにしても、彼はちゃんと授業を聞いている。そんな西城くんの教科書の隅に、あの猫みたいな犬を思い出しながら描いた。

「・・・ふっ」

我ながら可愛くかけたのに、笑われてしまった。と思ったら、昨日のアルマジロみたいなカメが、西城くんによってとても上手に描かれる。
吹き出しが出て、カメが「下手」と喋った。なんて生意気なカメだ。

黒板を見ると、止まぬ恥ずかしさを荒々しいチョーク裁きで黒板にぶつける先生がいた。リスニングの授業での板書は珍しいから、余計に先生の羞恥心が伝わってきて逆に面白い。
それを見てから隣に目をやれば、対照的に涼しい顔をして黒板を見つめる西城くんがいた。

なんだか先生の方が不憫に見えてきた私は、自分が描いた猫のような犬に「ゲーム、ほどほどに」と書いておいた。


・・・西城くんて、無敵だ。
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