隣の席の西城くん

ケーキ屋の店員


私ですが。


「ケーキ屋さんに行きましょ」


友人がしつこいです。
最近1キロのダイエットに成功したらしい野村くんの席に我が物顔で座り、そんなことを言ってきやがった。
ごめんね野村くん、こいつが座っているせいで座れないね。私がすぐに退かしてあげるから、そんな切なそうに教室の入口からこちらを見ないでください。

「ケーキ屋さんに・・・」
「やかましい」
「泣きそう」

だって行きたいし・・・と小声で私に訴えてくる由希は、傘を忘れたあの日からやたらと新しくできたケーキ屋さんに行きたがる。そこに何があるのかちょっと気になるけれど、大方店員さんにイケメンがいるとかそういうのだと思う。



「私、今日の放課後先生に呼ばれてるから」

「待ってるわよ!待てるわよ!」

「なんでそんなに必死なんだ」

「だって・・・ガラス張りの店内にイケメンの店員さんが見えたんだもの」

「やっぱりか」

「あたしはあの店員さんとお話がしたい」

「ぼっちでゆけ」


「ふ」


言い合っていたら隣から笑ったような声が聞こえて、思わず二人でそちらをみるが、すぐに会話に戻る。


「とにかく、待っててもいつ解放されるかわからないから」

「・・・どうせトト先生とお茶するだけでしょ」

「資料整理手伝うとお茶入れてくれるだけだし」

「美味しい和菓子まで出てきて・・・ケーキがなくてもお菓子があるものね!」

「美味しいかわからないケーキよりも、トト先生が厳選した美味しい和菓子の方が魅力的」

「んもぉぉぉ!!」


「っ・・・」



再び聞こえたそれに、再び隣りを見る。



「なによ西城!」


チラリ、由希を一瞥してから「しまった」という顔をしながら目をそらした。


「あ、なんでもない・・・」

「なんでもないなら笑わないでよ!」

「西城くんまたそのゲームやっ・・・猫が進化してる」

「犬ね、犬」

「ねえぇぇケーキ行きましょうよぉぉぉ」


なんで笑ってたんだろう、と思いながら進化したそのキャラが画面を駆け回るのを見ていた。
聞いたら教えてくれるのだろうか。

・・・教えてくれるか。



「西城くん、ケーキ屋さんの店員さんのことなにか知ってるの?」



私のこの言葉に、由希は驚きながら西城くんと私を交互に見る。
西城くんは一通り指を動かし終えてから、少しだけおかしそうに笑った。


「知ってる」

「っ、何を知ってるのよ!」


由希に迫られて少し後ろにのけ反りながら、西城くんは私を見た。

私を、見た。


「・・・内緒」



・・・ふむ。これは気になる。
なにが気になるって、西城くんは私に向けて「内緒」と言ったのだ。
ということは、「知りたければ行ってきなよ」と。

ギャーギャー騒いで、西城くんに文句を言っている由希の頭にチョップをかます。


「放課後、いくよ」

「へ?と、トト先生は?」

「明日にしてもらう」

「あたしは最高の親友を持ったわ」

「うわ、重い」

「さ、最高の・・・」


私たちの会話を聞き終えて、西城くんは再び、ゲームの画面に意識を戻して、また忙しなく指を動かし始める。

・・・西城くんが内緒にするだけの面白いことって、なんだろ。
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