【短編】……っぽい。
「あの、すみませ……って、え、なんで?」
しかし課長は、憤怒するどころか、にこにこと笑ったまま「それじゃあ、大崎さんが終わるまで待ちます」と言い、自分の席に戻ると、口をチャックで閉める動作までするではないか。
完全に意表を突かれたあたしは、徐々に緊張が解けていくのと同時に、いよいよこれは、田原さんの言う通り、課長に好かれているのではないだろうか、と考えはじめる。
そうなれば、おのずとキーボードを叩く手がゆっくりになり、最後はあたしがフリーズだ。
「どうしたんですか、大崎さん」
「あ、あの……。あの……」
課長が心配した様子で駆け寄ってくれるも、間違っても「あたしのことが好きなんですか?」などとは聞けないあたしは、口を金魚みたいにパクパクするだけで、言葉は出ない。
ああ、どうして田原さんとランチに行ってしまったんだ、お昼のあたし……っ!!
後悔してもしきれない重大なミスである。
「……帰りますね。資料は、出来たら僕の机の上に置いておいてください。朝いちで目を通します。戸締まりだけ、よろしくお願いしますね」
「……」
すると課長は、フロアの鍵をあたしの机の上にそっと置き、本当に帰っていってしまった。