さかのぼりクリスマス
◆Last X’mas
Last.



「ナーナ!ただいまぁ~」


 仕事終わり。家のドアをあけたら、鍋をかき回している、ナナの後ろ姿があった。

 鼻にすべりこんでくる、あたたかな香り。おれがリクエストしておいた、シチューだ。

 もう、マジしあわせ。仕事の疲れと寒いの、ふっとんだ。


「おかえり~」


 振り返ったナナが言った。ニコッと笑った顔と、エプロン姿がとてつもなくかわいくて、ギュウウーっと抱きしめたくなる。

 実際に抱きしめようとしたら、火使ってるから危ないってあしらわれた。しょぼくれてスーツを脱ぐことにする。

 リビングにもたちこめている、しあわせの香り。

 ナナの作るシチューは、ものすごくおれ好みだ。
 濃厚だけど牛乳の風味は残ってて、そんでトッピングに、パリッパリに揚げたチキンの皮がのっかってるのがもう最強。

 クリスマスに、ナナのパリッ皮シチュー。んで、手作りケーキ。ワインの赤と白。最高。これ以上望んだらバチあたる。


 …去年は、こんな風に過ごせるなんて、想像もできなかった。

 上着なんかなくても、ホカホカにあたたかい部屋の中。そんなことを、しみじみと思う。

 クリスマス間近に元カノとモメて、別れて、部屋で一人酒飲んでたんだっけ。去年のおれ。

 あの時はなかなか荒れた生活送ってて、なんとか仕事だけは行ってるレベルの底辺で。


< 13 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop