Street Ball
「私との事なら、何も気にする必要はないわ。翠ちゃんには本当に悪い事をしたと思ってる。でも…仕方なかったのよ。」


「何が?」


夏の夜。寒くはない筈なのに、碧は身を寄せるようにして、自らの腕を強く掴んでいた。


「ごめんなさい、それは言えないの。でも、二人の関係が羨ましく見えたわ…。」


初めて碧と身体を交えた時の事を思い出した。


俺と翠の関係を、楽しそうな笑みを浮かべて聞いてきた碧。


あの時はおちょくられているのだと思って、瞬間的に苛付きを覚えた。


でも、今の碧の表情を見る限り、本当にそうではなかったのだと思える。


「もう会う事は無いと思うけど、碧と会えて良かったよ。」


翠を傷つけてしまったけど、これが本心だった。


会わなければ良かったとは思いたくなかったし、言えなかった。


「そう…有り難う。」


他にも隠された部分が有ると思いつつも、碧を残してエレベーターに向かった。
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