君には聴こえる


落ち着かなくちゃ……


自分に言い聞かせて、今にも笑みが浮かんでしまいそうな顔を引き締めようと固く口を結ぶ。期待に弾み出す胸を鎮めながら、ぐるりとコンコースを見回した。


等間隔に並んだ太い柱の傍に、ひとり、ふたりずつ人が居る。柱にもたれかかって立っていたり、しゃがみ込んでいたり。誰かと待ち合わせをしているに違いない。


柱のひとつの傍には、交通安全と書かれたタスキを掛けた信楽焼の狸がどんと立っている。


口を開けて笑った顔で首を傾げる狸の変わらない表情に、ほっとして肩の力が抜けていく。


あの頃と何も変わらない。


きっと、あと何年経っても目の前に広がるコンコースの光景は変わらないだろう。




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