蜜恋ア・ラ・モード

「洸太。私ね、今幸せだよ。こんな気持ち、生まれて初めてかもしない」

「……そっか、幸せか。本当は俺が幸せにしたかったんだけどな」


そう言って天井を仰ぐ洸太の姿は、涙を堪えているようで。

一度止まった涙が、また頬を濡らした。


「洸太、ごめんね……」

「バカか、お前は。なんで謝るんだよ?」

「だって……」

「都子の幸せが、俺の幸せなの。わかるか?」


わかるか? って言われても、わかるよとは答えにくい。

もし私が逆の立場だったら、そんなこと口が裂けても言えないと思うから。


「ところで有沢さん」


急に洸太が真剣な声を出すと、少しだけ緩みかけていた室内の雰囲気が一転。

ピリッとした空気が張り詰める。


「何でしょう?」

「確か有沢さんには、彼女がいると? その話は嘘だったってことでいいんですよね?」

「あぁ……。そのことは、今から順を追って話させて下さい」


薫さんが真佳さんのことを話し始めると、私は席を外しコーヒーを淹れ始めた。

薫さんと洸太の会話は、ここまで聞こえてこない。少し心配で様子を伺えば、穏やかな表情で話しているふたりが見える。

うん、大丈夫。

ほっと胸を撫で下ろすと、エスプレッソマシンから漂う匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。



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