蜜恋ア・ラ・モード

  笑顔と泣き顔


キッチン横の小窓を覗けば、雲ひとつない青空が広がっている。

絶好のドライブ日和だというのに、私の心の中は相変わらず曇ったまま。

それでも今日持って行く弁当を作っていると少しずつ気持ちが晴れてくるような気がするのは、大好きな料理をしているからだろう。

キッチンに立っている時が一番落ち着く。

それに今日は、久しぶりに作る弁当。

学生の頃や就職していた頃は毎日自分で弁当を作っていたけれど、今は出かけることも減っていて弁当を作る機会もなくなっていた。

鶏の唐揚げに筑前煮、ほうれん草とチーズを巻いた玉子焼きにポテトフライ。

それに、赤いタコさんウインナー。

昨日洸太のことを考えていたから、つい作ってしまったけれど……。

こんなのを入れたら薫さんに笑われてしまうかもしれないと思いつつも、弁当箱の隅にブロッコリーと一緒に詰め込んだ。


「出来上がり」


定番のものばかりだけど、なかなかの出来栄えだ。


「このタコさんウインナー。洸太が見たら喜ぶんだろうなぁ」


弁当箱からひょっこり出ているタコさんウインナーの頭を、チョンッとつついてみる。

学生の頃の洸太の顔が頭の中に浮かんできて、思わず笑みがこぼれた。


「都子さん、おはよう。お弁当、もうできたんだ」


突然背中越しに薫さんの声がして、一気に身体が緊張感に包まれる。

いつからそこにいたの? もしかして、今の私のひとりごと聞かれてた?

恐る恐る振り向くとそこには着替えを済ました薫さんがいつもの笑顔で立っていて、私の腕を引くと身体をギュッと抱きしめた。
< 119 / 166 >

この作品をシェア

pagetop