蜜恋ア・ラ・モード

「ほら、都子さん。そんな泣き顔じゃなくて、いつもの素敵な笑顔を見せて。じゃないと、僕が真佳に怒られてしまう。女性を泣かせて、ひどい人ねって」


でもしばらく涙が止まることはなくて、薫さんは私が泣き止むまで肩を抱いていてくれた。


「今回のことで、都子さんが負い目を感じることはないからね。いずれ君は洸太くんへの気持ちに気づくと思っていたし、僕自身も真佳のことを完全に消し去ることは出来なかった」

「真佳さんのことは、消し去ることが出来なくてもしょうがないよ」

「いや。都子さんには悪いと思いながらも、知らず知らずに君と真佳を比べてしまっていた。それは紛れもない事実だ」


そう言ってポンッと肩を叩くと、私の身体を薫さんの正面に向かせる。

目の前には、大好きだった薫さんの笑顔が広がっている。

こういうスチュエーションで薫さんの笑顔を見るのはこれが最後だと思うと、また涙が込み上げてきそうになってしまう。

でもさっき、笑顔を見せてと言われたばかり。

少しだけ俯いてゆっくり目を閉じ深呼吸をすると、パッと顔を上げ笑顔を見せた。

上手く笑えてるかな。ちょっと自信がない。

でも薫さんから目をそらさずに、見つめ続ける。


「うん。やっぱり都さんは、泣き顔より笑顔のほうが数倍綺麗だよ」

「薫さん、数倍は言い過ぎ」


そしてふたりで笑っていると、その間を爽やかな海風が吹き抜ける。

私は今日の日のことを、絶対に忘れない。

海風が運んできた匂いと共に、胸の奥にそっとしまいこんだ。






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