蜜恋ア・ラ・モード
最終章

  愛情と友情に包まれて


「ちょっと冷えてきたね。そろそろ帰ろうか?」

「うん」


真佳さんとの話も終わったのか、薫さんが墓前からすっと立ち上がる。そばで薫さんを観ていた私はその言葉に頷くと、彼に手を引かれ駐車場まで戻った。

私を車の助手席に乗せると、薫さんも小走りで運転席に向かい乗り込んだ。

何か慌てているのか薫さんは腕時計を見ると、急いで車のエンジンを掛ける。

この後、何か予定でもあるの?

薫さんを眺めつつそんなことを考えていると、ふいに彼が私の方に振り向いた。


「思っていたより、のんびり過ごしてしまった。帰りはちょっと飛ばすよ」

「それは構わないけど、何かあるの?」

「僕は何もない。あるのは都子さん、君の方だ」

「私?」


薫さんはそこまで言ってニヤリと意味ありげに笑って見せると、ハンドルを握り直しアクセルを踏み込んだ。

私に一体何があるっていうの?

今日は料理教室もないし、帰っても夕飯を食べて風呂に入って寝るだけ。

そんな私に、何があると言うのだろうか。

車は行きに走ってきた道を、私達の住んでいる街へと軽快に走っている。

特に何処かへ行くってわけではなさそうだけれど……。


「あの~、薫さん?」

「何?」

「どこに向かっているのかだけでも、教えてほしいんだけど」

「秘密。着いてからのお楽しみってね」


薫さんは前を向いたまま、お得意の意地悪な笑みをこぼす。
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